「おはなしがいっぱい ７」掲載
4月第3週 「弟子たちに現れる」
『その後、イエスはティベリアス湖畔で、また弟子たちにご自身を現された。』ヨハネ21・1〜6
「解説」
ヨハネ福音書20章では、イエスの復活が、マグダラのマリアの「出会い」の体験として語られていました。21章では、こんどは、弟子のペトロの、復活のイエスとの出会いが語られます。
20章から21章にかけてよく読んでみると、ヨハネ福音書は20章31節まででいったん終わっていることに気付きます。21章は、これに後から書き足されたものと考えられます。おそらく、福音書が書かれたころのキリスト教会では、さまざまな人物の、復活のイエスとの出会いの体験が語り伝えられていたのでしょう。その中で、ヨハネ福音書は初め20章までまとめられましたが、やがてそれだけでは飽き足りなく考えられるようになり、別に語り伝えられていたペトロの出会いの物語が加えられたのでしょう。ですから、21章を読むときは、無理して20章とつなげて理解するよりも、それだけでまとまった｢出会い｣の体験の物語として読むのが適切だと思います。
さて、ここでは、イエスが、ペトロを含む数人の弟子たちに「ティベリアス湖畔」で姿を現わされたとあります。「ティベリアス湖」とは、ガリラヤ湖の別名です。ペトロや、ほかの何人かの弟子たちは、もともとこの湖で漁をしていた漁師でした。ガリラヤ地方で宣教の働きを始めたイエスに招かれ、漁師としての生活を捨てて弟子となった彼らでしたが、今は、もとの家に戻っているのです。3節には、「シモン・ペトロが、『わたしは漁に行く』と言うと、彼らは、『わたしたちも一緒に行こう』と言った」とあります。つまり、ペトロたちは、故郷に帰り、もとの漁師の生活に戻ろうとしていたのです。
イエスに出会う前の生活、ガリラヤの漁師の生活に戻ろうとしたペトロたちですが、それはうまくいきませんでした。昔のように船に乗りこみ、網をおろしてみても、魚は少しもとれません。そこにイエスが現れて、彼らに収獲を与え、またパンと魚を分け与えて食べさせます。もとの生き方によってはもはや食べられない弟子たちを、復活のイエスは、ご自身で養ってくださるのです。ペトロたちは、もはや、イエスによって生きるほかはありません。もとの生活に戻るのではなく、新しくイエスに従って生きる者とされているのです。
復活を信じるとは、どういうことでしょうか。イエス・キリストが十字架で死んだのによみがえった、そのことを信じると、どうなるというのでしょうか。
生きておられるイエスと出会い、復活を信じるとき、人は、新しくされます。新しい生き方に導かれます。もはやこれまでの人生、もとの生活に戻ることはできないのです。信仰は、人の生き方を変えていくものです。復活のイエスと出会うということは、「わたし」が変えられていくことなのです。
「説教例」
暗い夜です。大きな湖に、船が浮かんでいます。暗い中、船から網がざっとおろされました。魚を取っているのです。しばらくすると、船の上のみんなで力をあわせて網を引き上げます。ずるずると網があがってくると、「ああ…」とがっかりした声がして、しばらくするとまた、ざっと網を打つ音がします。
さっきから何回も網をおろしているのに、ちっとも魚がとれないのです。網をひっぱりあげても、なかはからっぽです。船の上の漁師たちは、元気がありません。黙って、くたびれたようすで、のろのろと仕事をしています。
だんだん夜が明けてきました。湖の波は、朝の光にきらきら輝き始めました。でも、漁師たちの顔は暗いままです。網も船も、からっぽです。漁師たちの心もからっぽのままのようです。
疲れた漁師たちがふと目をあげて岸辺を見ると、だれかが立っているのが見えました。こんなに朝早く、誰でしょう。すると、その人が呼びかけてくるのが聞こえました。
「おおい、何か食べる物がありますか。」
漁師たちは思わず顔を見合わせました。そういえば、夜通し働いて、おなかはぺこぺこなのに、食べるものは何も持ってきていません。魚もぜんぜんとれていないのです。「いいや、なんにもないよ」とどなると、また声がしました。
「船の右側に網を打ってごらん。そうすればとれるはずだ。」
遠くなのに、なぜかはっきりそう聞こえました。漁師たちはまた顔を見合わせました。一晩中網を打ってもとれなかったのに…。でも、不思議に、そうしなければならない気がして、言われた通りにやってみました。すると、どうでしょう、網をひっぱりあげようとしても、重たくてあげることができません。それほどたくさんの魚が入っているのです。
みんながびっくりしているとき、岸辺のほうをじっと見つめていたひとりが、はっと気付いたように叫びました。
「あれは、主だ、イエスさまだ！」
みんないっせいに振り返りました。そのとたん、だれかが船から湖に飛び込みました。夢中で岸辺に立っているイエスさまの方へ泳いでいきます。船もあとからついていきます。
湖にとびこんだのは、ペトロさんです。ずぶぬれになったペトロさんが岸に着いてみると、そこにイエスさまが立っていました。かたわらでは火が燃えていて朝ごはんの用意ができています。
イエスさまは、「さあ、朝ごはんにしよう」と言って、みんなにパンを分けてくださいました。
ペトロさんは、胸がいっぱいになりました。ペトロさんも、ほかのみんなも、今にも泣き出しそうな、笑い出しそうな顔をして、イエスさまを見つめています。イエスさまだ、イエスさまは、よみがえってここにいる、生きておられる…。
よみがえったイエスさまからいただいたパンを食べているうちに、みんなのからっぽだった心がいっぱいになり、暗かった気持ちが明るくなっていくのでした。
(久世そらち）